自ら考え挑戦する力を育む 成功に目を向けた安全マネジメントを
現代心理学部心理学科 芳賀 繁 教授
2017/10/10
研究活動と教授陣
OVERVIEW
私たちは日々の生活や仕事の中で、忘れ物やメールの添付漏れなど、さまざまなミスを犯すことがあり、時にそれらが重大な事故につながることがあります。そもそもなぜ人間は失敗(ミスやエラー)するのか。ヒューマンエラーのメカニズムや対策、さらにはミスを防ぐための行き過ぎた安全マネジメントの弊害について、現代心理学部の芳賀繁教授に伺いました。
私たちが起こしてしまうミスやエラーは、どのようなメカニズムで起きるのですか。
1件の重大な事故が発生したとき、29件の軽微な事故がすでに発生しており、その背景には300件のヒヤリとする出来事が起きているとする法則。
私はJRの研究所などで、「注意とミス」について研究してきましたが、適性検査で注意深いと判断された人でもミスを起こします。つまり、いくら注意してもミスは必ず起こるのです。
人間が起こすミス、「ヒューマンエラー」は主に3つのケースに分類されます。まず、実際に動作や行動を起こす前に、すでに間違いが起きているケース。これは勘違いや錯覚に起因するものです。次に、動作そのもののミス。例えば、目的の場所が移転したにもかかわらず、それまでの習慣から無意識に元の場所に向かってしまう。これを心理学では「アクション・スリップ」と呼びます。最後に、物事を思い出せない、忘れてしまうといった記憶のミス。うっかりして予定を忘れてしまったり、手紙を持って出掛けたのにポストに投函せずに帰ってきてしまったりすることは、日常的に誰もが経験しているのではないでしょうか。
こうしたミスはいずれも、大きな事故につながる可能性があります。実際に、ガス工事の後、元栓を閉め忘れたために、爆発事故につながったことがありました。このようにちょっとしたミスでも、一歩間違えば甚大な事故につながるため、私は認知心理学・人間工学の立場からエラーのメカニズムを分析し、事故を起こさないための研究を行ってきました。
人間が起こすミス、「ヒューマンエラー」は主に3つのケースに分類されます。まず、実際に動作や行動を起こす前に、すでに間違いが起きているケース。これは勘違いや錯覚に起因するものです。次に、動作そのもののミス。例えば、目的の場所が移転したにもかかわらず、それまでの習慣から無意識に元の場所に向かってしまう。これを心理学では「アクション・スリップ」と呼びます。最後に、物事を思い出せない、忘れてしまうといった記憶のミス。うっかりして予定を忘れてしまったり、手紙を持って出掛けたのにポストに投函せずに帰ってきてしまったりすることは、日常的に誰もが経験しているのではないでしょうか。
こうしたミスはいずれも、大きな事故につながる可能性があります。実際に、ガス工事の後、元栓を閉め忘れたために、爆発事故につながったことがありました。このようにちょっとしたミスでも、一歩間違えば甚大な事故につながるため、私は認知心理学・人間工学の立場からエラーのメカニズムを分析し、事故を起こさないための研究を行ってきました。
ヒューマンエラーを防ぐためには、どのような対策が有効なのでしょうか。
ヒューマンエラーを防ぐため、過去にはチェックリストやマニュアルを整備し、個人への注意喚起を徹底するといった対策が取られてきました。
1970年以降、システムが巨大化・複雑化し、石油化学コンビナートの爆発や、航空機の墜落など、人間のミスが引き起こす事故の影響が大きくなってきました。そこで、個人の注意力に頼るのではなく、「事故や誤りは必ず起こる」という前提で、誤操作・誤動作しても安全に制御する「フェイルセーフ」や、誤操作そのものができない設計にする「フールプルーフ」など、人間工学的な工夫で「ヒューマンマシンシステム」全体を改善する取り組みによってエラーや事故を予防する対策が取られるようになったのです。
一方で、仕事の現場において、ヒューマンエラーの確率を下げ、万が一事故が起きても被害が大きくならないよう、万全な安全マネジメントを行うあまり、人間の判断や裁量が立ち入る隙がなくなってきています。少しのミスも許さない、行き過ぎたマネジメントが進むと、もはや人間は創意工夫をする必要がなく、挑戦する機会も奪われます。つまり、1のミスを防ぐために、10の成功が妨げられるような職場環境が増えているのです。
1970年以降、システムが巨大化・複雑化し、石油化学コンビナートの爆発や、航空機の墜落など、人間のミスが引き起こす事故の影響が大きくなってきました。そこで、個人の注意力に頼るのではなく、「事故や誤りは必ず起こる」という前提で、誤操作・誤動作しても安全に制御する「フェイルセーフ」や、誤操作そのものができない設計にする「フールプルーフ」など、人間工学的な工夫で「ヒューマンマシンシステム」全体を改善する取り組みによってエラーや事故を予防する対策が取られるようになったのです。
一方で、仕事の現場において、ヒューマンエラーの確率を下げ、万が一事故が起きても被害が大きくならないよう、万全な安全マネジメントを行うあまり、人間の判断や裁量が立ち入る隙がなくなってきています。少しのミスも許さない、行き過ぎたマネジメントが進むと、もはや人間は創意工夫をする必要がなく、挑戦する機会も奪われます。つまり、1のミスを防ぐために、10の成功が妨げられるような職場環境が増えているのです。
行き過ぎた安全マネジメントにはどのような弊害があるのでしょうか。
「決められたことだけをやって、余計なことはしなくていい」といった安全マネジメントは、働く者のモチベーションを奪い、ひいては安全への意識を低下させます。失敗しないためのマニュアルを押し付けられ、過度に行動や思考を制限された状況にあり、せっかく自分で考えて臨機応変に業務を行っても、失敗をすれば厳しくとがめられる。そのような環境であれば、もはや考えない方が得だと考えてしまうでしょう。「指示待ち族」という言葉がありますが、挑戦しない人材が育つのは無理もありません。
私の研究室で行った調査研究では、自分の組織が公正だと感じている人は、仕事への誇りや責任意識が高く、それがモチベーションとなって、より安全な行動につながることを明らかにしています。その組織における「公正な文化」は、現場力を高め、結果的に良好な安全マネジメントにつながるのです。
成功の裏には現場のさまざまな工夫や臨機応変があり、そのごく一部が失敗につながることがあるのです。失敗を責めるのではなく、むしろ挑戦したことを褒めることが重要です。家庭でも同様に、「失敗は成功の母」という言葉通り、人を傷つける、自分の命にかかわるといった本当に危険なことをしっかりと理解をさせた上で、子どもが失敗することを恐れず、さまざまなことに挑戦させてみてはいかがでしょうか。
私の研究室で行った調査研究では、自分の組織が公正だと感じている人は、仕事への誇りや責任意識が高く、それがモチベーションとなって、より安全な行動につながることを明らかにしています。その組織における「公正な文化」は、現場力を高め、結果的に良好な安全マネジメントにつながるのです。
成功の裏には現場のさまざまな工夫や臨機応変があり、そのごく一部が失敗につながることがあるのです。失敗を責めるのではなく、むしろ挑戦したことを褒めることが重要です。家庭でも同様に、「失敗は成功の母」という言葉通り、人を傷つける、自分の命にかかわるといった本当に危険なことをしっかりと理解をさせた上で、子どもが失敗することを恐れず、さまざまなことに挑戦させてみてはいかがでしょうか。
芳賀教授の3つの視点
- いくら注意してもミスは起きる
- ミスを許さないマニュアル化は現場力を下げる
- 褒める文化が成功を生み出す
※本記事は季刊「立教」241号(2017年7月発行)をもとに再構成したものです。定期購読のお申し込みはこちら
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プロフィール
PROFILE
芳賀 繁
1977年、京都大学文学研究科心理学専攻修士課程修了。
1979年より、日本国有鉄道鉄道労働科学研究所研究員などを経て、1986年、トロント大学 (カナダ)心理学研究科博士課程単位取得満期退学、1999年、博士(文学)・京都大学。
1998年、立教大学文学部心理学科助教授、2002年4月、同教授。
2006年4月より、現職。
専門は、産業心理学、交通心理学、人間工学。
※記事の内容は取材時点のものであり、最新の情報とは異なる場合がありますのでご注意ください。
芳賀 繁教授の研究者情報