連携講座「池袋学」|多様な文化をうみだす都市・池袋——都市研究の観点から考える

立教大学

2015/10/28

トピックス

OVERVIEW

東京芸術劇場×立教大学 連携講座「池袋学」<秋季>

日時 2015年10月10日(土)14:00~16:00
会場 池袋キャンパス 太刀川記念館3階ホール
講演者 三田 知実(立教大学社会学部現代文化学科助教)
 

講演会レポート

2014年から始まった、東京芸術劇場と立教大学の連携講座「池袋学」。2015年度5回目となる今回の講座は、立教大学社会学部助教の三田知実助教に、「多様な文化を生み出す都市・池袋——都市研究の観点から考える——」というテーマでお話しいただきました。年代を問わず、多くの方々にお集まりいただき、講座終了後もたくさんの質問が寄せられ、盛況のうちに終了しました。今回はその模様をご紹介します。

「ターミナルなのに、都会なのに、時間がゆったりと流れるのが池袋」。三田助教は他の都市と比較して、池袋の魅力をこう説明します。今回の講座は、そんな池袋で生み出された文化の事例、それらを都市社会学の観点から切り開くものでした。

ボヘミアとしての池袋

1930年~40年代、池袋には芸術家の活動拠点となるアトリエが多く集まっており、その様子がパリ市内のモンパルナス地区に類似していたことから「池袋モンパルナス」と称されていました。そのほか、椎名町には手塚治虫や藤子不二雄のように後にマンガ文化を切り開いた著名な漫画家たちが居住していたアパート「トキワ荘」が存在し、現在の立教大学6号館の隣には1934年から探偵小説家の江戸川乱歩が居住していました。このような事実から、三田助教は池袋が一種の「ボヘミア」としての一面をもっているのではないかと言及しました。都市社会学上でのボヘミアとは、自由奔放な芸術家、小説家などの文化人(ボヘミアン)が集住する場所のことを指します。

さらに、三田助教はアメリカの都市社会学者リチャード・フロリダの研究をとりあげ、ボヘミアンやLGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー)が多い都市ほど、寛容な環境であるがゆえに、成長の原動力になっているという先行研究の論点を紹介ました。この論点に鑑みて、三田助教は品川、渋谷、新宿などの都市と比べ、「ボヘミア」としての気風を帯びる池袋には寛容な価値観を持っている人々が多いのではないかと指摘し、多くの参加者がうなずいていました。

チャイナタウン池袋

池袋北口には、中国の食材店や日本に住む中国人を対象とした旅行代理店や飲食店が数多く存在しています。その背景として、三田助教は1978年の中国の改革開放政策と、日本政府による留学に関する規制緩和が進んだこと、出稼ぎで来日した中国人移民が増加したことを挙げました。池袋はターミナル駅らしい雰囲気も持ちながらも、駅近辺に家賃の安価な木賃アパートが密集しており、新宿、渋谷、上野、東京など都市へのアクセスもしやすいことから、中国人移民が居住していきました。その結果、池袋には観光地としてではないチャイナタウンが自然発生したと、三田助教は結論付けました。特に池袋のチャイナタウンの議論に関しては質疑応答が活発となり、参加者の本講座に対する関心の高さが感じられました。

多彩な顔をもつ池袋

池袋はさらに多くの顔を持っています。西池袋には、建造物としても価値の高い立教大学(東京都選定歴史的建造物)や、自由学園明日館(重要文化財)があり、両者とも西池袋の象徴として、池袋の都市的魅力を高めていると言えるでしょう。一方、東池袋方面には、帝京平成大学や東京福祉大学の都心キャンパスもあります。このように、池袋には複数の教育機関が駅近隣に集中しており、学術拠点を形成している側面があります。

また、西武、東武、パルコ、ルミネ(旧メトロポリタンプラザ)に代表されるように、ショッピングの拠点にもなっています。このような百貨店のほか、サンシャイン60の近隣には「乙女ロード」と称されるストリートがあります。かつてのトキワ荘世代の漫画とは全く異なる系統のアニメグッズ販売拠点としての一面も見られます。

まとめ

1920年代初頭に、シカゴ大学を拠点として本格的に都市社会学が生み出され、主として「都市の成長が何をもたらすのか」という観点から研究が進められてきました。1970年代以降になると、「何が都市の成長をもたらすのか」という観点にシフトチェンジされ、現在に至るまで研究が進められています。池袋については、どちらの考え方も答えをあてはめることができ、都市社会学にとっては格好のフィールドであることが分かりました。

今回の講座で、多様な文化を生み出している池袋について理解を深め、参加者の中には「池袋」に対する見方が変わった方もいらっしゃるようでした。日々過ごす私たちの街・池袋は、たくさんの研究の宝に満ちあふれていることに気付かされました。統計データで都市を鳥瞰的に分析することも大切ですが、実際に街を歩き、街を感じることで見えてくるさまざまな文化があります。その面白さが都市社会学にはあると感じられました。

池袋の歴史と魅力を都市研究の観点から詳細に扱った今回の講座は、池袋のもつ都市的魅力と、格好の研究フィールドであることを再認識できるものでした。

池袋では近年大規模な再開発が行われています。豊島区役所も総工費約430億を費やし、今年5月に新庁舎が竣工されました。一方で、2018年には立教大学の築地から池袋への移転100周年を迎えます。変化するものと変化しないものが混在するなかで、どのような新しい文化が生まれていくのか。今後ますます池袋に目が離せません。

※記事の内容は取材時点のものであり、最新の情報とは異なる場合がありますのでご注意ください。

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