OBJECTIVE.
第37回「辻荘一・三浦アンナ記念学術奨励金」の受賞者を以下の通り決定しました。
【受賞者氏名】
勝谷 祐子(かつたに ゆうこ)氏
【受賞対象業績】
フランス中世末期の聖堂壁画研究
Les peintures murales de Saint-Bonnet-le-Château: Le programme dévotionnel et dynastique (fin XIVe - début XVe s.), Brepols Publishers, 2022
「辻荘一・三浦アンナ記念学術奨励金」は、故辻荘一名誉教授(音楽史)および故三浦アンナ教授(美術史)のキリスト教芸術研究上の功績を記念し、キリスト教音楽またはキリスト教芸術領域の研究者を奨励するため、1988年に設置されました。
「音楽史」部門および「美術史」部門の研究者に対し1年ごとに交互に授与されますが、本年度は「美術史」部門が対象となります。
【授与式】
日 時 2025年1月25日(土)11時から
場 所 立教学院諸聖徒礼拝堂(池袋キャンパスチャペル)
【レセプション】
日 時 同日 12時15分から
場 所 池袋チャペル会館1階 第1会議室
勝谷 祐子(かつたに ゆうこ)氏
【受賞対象業績】
フランス中世末期の聖堂壁画研究
Les peintures murales de Saint-Bonnet-le-Château: Le programme dévotionnel et dynastique (fin XIVe - début XVe s.), Brepols Publishers, 2022
「辻荘一・三浦アンナ記念学術奨励金」は、故辻荘一名誉教授(音楽史)および故三浦アンナ教授(美術史)のキリスト教芸術研究上の功績を記念し、キリスト教音楽またはキリスト教芸術領域の研究者を奨励するため、1988年に設置されました。
「音楽史」部門および「美術史」部門の研究者に対し1年ごとに交互に授与されますが、本年度は「美術史」部門が対象となります。
【授与式】
日 時 2025年1月25日(土)11時から
場 所 立教学院諸聖徒礼拝堂(池袋キャンパスチャペル)
【レセプション】
日 時 同日 12時15分から
場 所 池袋チャペル会館1階 第1会議室
【選考理由】
受賞対象となった勝谷祐子氏の業績は、2012~2019年にわたるストラスブール大学での研究成果として提出された博士論文に基づいて、2022年に出版された次の仏語著作である。Les peintures murales de Saint-Bonnet-le-Château: Le programme dévotionnel et dynastique (fin XIVe - début XVe s.), Brepols Publishers, 2022(邦訳『サン=ボネ=ル=シャトー参事会聖堂壁画:信仰と王朝のプログラム(14世紀末-15世紀初め)』)。
本書は、フランス東南部ロワール県のフォレズ山間に位置するサン=ボネ=ル=シャトー参事会聖堂の壁画に関するモノグラフ研究である。この壁画は、1400年頃の聖堂改築工事により新設された埋葬用礼拝堂を飾るもので、複数の寄進者が制作を引き継ぎ、1416年にブルボン公爵夫人アンヌ・ドーフィヌ(1358-1417)によって完成されたと考えられている。壁面には聖母とキリストの生涯を説く12の場面が、天井部にはブルボン公ルイ2世(在位1356-1410)ゆかりの紋章をはじめ、「聖母被昇天」のミサに捧げられた聖歌の楽譜と8種の古楽器を手にする、奏楽の天使たちが描かれている。
本壁画が制作された時代、国王シャルル6世(在位1380-1422)治世下では、長期化する百年戦争の影響と、教会大分裂によるローマとアヴィニョンの教皇併存によって社会は混乱していたが、王侯貴族たちの庇護のもとで華やかな宮廷文化が花開いた。勝谷氏の研究から浮かび上がるのは、こうした環境で育まれたキリスト教美術の豊かさである。
フランスをはじめ、西洋中世壁画研究には多くの困難が伴う。なぜなら、建築物を媒介とする空間芸術は、個々の現存作が断片的な状態で各地に点在しており、そのほとんどが逸名の工房作であることから、作品群を体系的に論ずるためには、粘り強い現地調査と史料の渉猟など、膨大な労力と時間を要するからである。
勝谷氏の研究はこれらの問題を克服し、フランスの中世末期、とりわけ1400年前後の聖堂壁画について、絵画様式と図像の綿密な分析に基づき、制作年代の再検討、注文主や工房の特定を行い、ロワール県の山中に描かれた本壁画が、当時のパリ周辺の写本挿絵や、西部の都市ル・マン司教座聖堂の壁画と密接な関係を有し、さらにブールジュを中心とするベリー地方、アヴィニョンやサヴォワのフランス各地から、フランドル地方、イタリアにまでいたる広範な文化を結実させた、国際ゴシック美術の一例であることを示した。
また、本壁画に描かれた「奏楽の天使」図像研究も特筆に値する。楽器を奏で、楽譜を手に歌う天使たちの姿は、後期中世から初期ルネサンスにかけてヨーロッパ各地で制作され、聖歌の調べと共鳴しながら、死者を弔い、信徒を天上世界へと誘う重要な役割を果たした。勝谷氏は、その象徴的解釈に取り組むと共に、近年では音楽史および楽器考古学の海外研究者らとの学際的な連携のもと、中世の失われた古楽器を復元する独創的なプロジェクトを立ち上げ、2025年秋には、ストラスブール大学図書館にて「奏楽天使—中世美術における音楽表現展」を開催予定である。
辻荘一・三浦アンナ記念学術奨励金運営委員会は、以上の勝谷氏の活動を高く評価し、2024年度第37回「辻荘一・三浦アンナ記念学術奨励金」の受領者に決定した。
受賞対象となった勝谷祐子氏の業績は、2012~2019年にわたるストラスブール大学での研究成果として提出された博士論文に基づいて、2022年に出版された次の仏語著作である。Les peintures murales de Saint-Bonnet-le-Château: Le programme dévotionnel et dynastique (fin XIVe - début XVe s.), Brepols Publishers, 2022(邦訳『サン=ボネ=ル=シャトー参事会聖堂壁画:信仰と王朝のプログラム(14世紀末-15世紀初め)』)。
本書は、フランス東南部ロワール県のフォレズ山間に位置するサン=ボネ=ル=シャトー参事会聖堂の壁画に関するモノグラフ研究である。この壁画は、1400年頃の聖堂改築工事により新設された埋葬用礼拝堂を飾るもので、複数の寄進者が制作を引き継ぎ、1416年にブルボン公爵夫人アンヌ・ドーフィヌ(1358-1417)によって完成されたと考えられている。壁面には聖母とキリストの生涯を説く12の場面が、天井部にはブルボン公ルイ2世(在位1356-1410)ゆかりの紋章をはじめ、「聖母被昇天」のミサに捧げられた聖歌の楽譜と8種の古楽器を手にする、奏楽の天使たちが描かれている。
本壁画が制作された時代、国王シャルル6世(在位1380-1422)治世下では、長期化する百年戦争の影響と、教会大分裂によるローマとアヴィニョンの教皇併存によって社会は混乱していたが、王侯貴族たちの庇護のもとで華やかな宮廷文化が花開いた。勝谷氏の研究から浮かび上がるのは、こうした環境で育まれたキリスト教美術の豊かさである。
フランスをはじめ、西洋中世壁画研究には多くの困難が伴う。なぜなら、建築物を媒介とする空間芸術は、個々の現存作が断片的な状態で各地に点在しており、そのほとんどが逸名の工房作であることから、作品群を体系的に論ずるためには、粘り強い現地調査と史料の渉猟など、膨大な労力と時間を要するからである。
勝谷氏の研究はこれらの問題を克服し、フランスの中世末期、とりわけ1400年前後の聖堂壁画について、絵画様式と図像の綿密な分析に基づき、制作年代の再検討、注文主や工房の特定を行い、ロワール県の山中に描かれた本壁画が、当時のパリ周辺の写本挿絵や、西部の都市ル・マン司教座聖堂の壁画と密接な関係を有し、さらにブールジュを中心とするベリー地方、アヴィニョンやサヴォワのフランス各地から、フランドル地方、イタリアにまでいたる広範な文化を結実させた、国際ゴシック美術の一例であることを示した。
また、本壁画に描かれた「奏楽の天使」図像研究も特筆に値する。楽器を奏で、楽譜を手に歌う天使たちの姿は、後期中世から初期ルネサンスにかけてヨーロッパ各地で制作され、聖歌の調べと共鳴しながら、死者を弔い、信徒を天上世界へと誘う重要な役割を果たした。勝谷氏は、その象徴的解釈に取り組むと共に、近年では音楽史および楽器考古学の海外研究者らとの学際的な連携のもと、中世の失われた古楽器を復元する独創的なプロジェクトを立ち上げ、2025年秋には、ストラスブール大学図書館にて「奏楽天使—中世美術における音楽表現展」を開催予定である。
辻荘一・三浦アンナ記念学術奨励金運営委員会は、以上の勝谷氏の活動を高く評価し、2024年度第37回「辻荘一・三浦アンナ記念学術奨励金」の受領者に決定した。
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総務部総務課
電話:03-3985-2253