作品と役への愛情を大切に演じて、届ける。

女優 古川 琴音さん

2021/02/10

立教卒業生のWork & Life

OVERVIEW

現代心理学部映像身体学科を卒業し、NHK連続テレビ小説「エール」やTBS系ドラマ「この恋あたためますか」など、女優として活躍する古川 琴音さんにお話を伺いました。

—大学時代、立教ESSドラマセミナー—

「好き」を道しるべに映像身体学科を選んだ

舞台について専門的に学びたい。そんな思いから立教大学に進学しました。中学校、高校と演劇部に所属していたので、10代の頃は舞台に関することに一番興味があったんです。将来どうなるかよりも、そのときの自分の「好き」という思いを道しるべに映像身体学科を選びました。
写真、映像、ダンス、演劇…いろいろな授業がありましたが、最も心に残っているのは4年次に受講した稲垣諭先生の現象学の講義です。唐突ですが、たとえば私が今日ここに来るまでには、何匹かのアリを踏んだかもしれません。でも、自分がそれを認識しなかったら踏んでいないのと一緒で、そのモノ・コトが存在しているという認識は、それが在ると“自分が信じている”という認識でしかない。現象学の講義はそんな、自分になかった視点を授けてくれました。いろいろな角度から光をあてて噛み砕いていくプロセスが、役作りの過程と似ているというか、参考になることが多くあって。その頃すでに今の仕事を始めていたので、講義が毎回楽しみでした。


舞台に立ちたい一心で英語のことは忘れていた

英語劇のサークル、ESSドラマセミナーに入ったのは、大学で仲良くなった先輩が所属していたからです。先輩に舞台の写真を見せられたとき、大学生がつくったとは思えないクオリティーに一瞬で心を奪われ、「私もここに立ちたい」とすぐに気持ちが固まりました。英語にはまったく自信がありませんでしたが、とにかく舞台に立つことに魅了されていたので、「英語でお芝居をする」の「英語で」の部分が完全に頭から消えていて、実際に稽古がスタートしたときは大変でした(笑)。
ESSドラマセミナーは毎年、四大学英語劇大会に参加しています。競合するのは一橋、慶應義塾、早稲田と、英語能力が高い大学ばかり。審査も厳しくて、そこで認められるような英語劇をつくるのは並大抵のことではありませんでした。まず、すべてのせりふに発音記号を振るところから始まり、1つひとつの音と口の形を覚え、それから単語の発音、単語ができるようになったらせりふの文、そしてイントネーションを付けて、さらにそこに感情を乗せ…というプロセスを踏んで、ようやく完成するんです。
私は出演者の中で一番英語が苦手だったので、1年目の舞台は英語の発音をマスターするだけで終わってしまいました。指導してくださった先輩は、そんな私に朝から晩まで付き合って、稽古後も発音を録音したボイスメモを送り合って練習したり、あるときは「これを待ち受け画面にして」と口腔断面図の画像が送られてきたこともあります。「aを発音するときはここが動くよ」って舌の位置を教えてくださったり、つきっきりで面倒をみてくださいました。当時は英語から逃げたい一心でしたが、今は先輩の深い愛情に心から感謝しています。コツコツ地道に積み重ねていけば、どんな壁も乗り越えられるということも教えていただきました。

—役者として、表現者として—

目の前のお芝居に柔軟に反応できるように

稽古と舞台に情熱を注いだ大学生活でしたが、最初から役者になろうと決めていたわけではありません。就職活動を前に将来を考えたとき、自分がここまで長く続けられたのはお芝居しかない、だったら挑戦してみてもいいんじゃないかと思って、現在の事務所のオーディションを受けたことが転機です。
仕事を始めて痛感したのは、舞台と映像の違いです。舞台は最初から最後まで通して1回でおしまいですが、映画やドラマは、広い画を撮ったり、アップを撮ったり、2人一緒に撮ったり…いろいろな方向から撮るので同じお芝居を何回もします。クライマックスを撮ってからその前のシーンを撮ったり。そうしたやり方に最初は戸惑いました。
役作りについては、以前は、役になりきるために自分で台本に書き込んだ情報を読み込んで、気持ちを作ってからシーンに入っていましたが、そうすると作ってきた気持ちにとらわれ過ぎて、目の前で起きているお芝居に反応できなくなるんです。結果、縮こまったお芝居になってしまう。なので、最近はあえて考えないようにしています。もちろん作品の本質から外れてはいけないので、撮影前のリサーチや役作りは徹底して行いますが、すべきことをして撮影に入ったら、とにかくその場に集中して、共演者の方のお芝居にも柔軟にリアクションできるようにする。今はそれを心がけています。


役者が役に込めるメッセージの力を実感

2020年はNHK連続テレビ小説『エール』にも出演させていただき、また一つ、経験の幅を広げることができました。窪田正孝さん、二階堂ふみさんという、昔から憧れていたお2人の娘役を演じることには不安もありましたが、みなさん本当に温かく迎え入れてくださって。窪田さんと二階堂さん、それぞれのお芝居に臨む姿勢や、現場でのコミュニケーションの取り方を間近で見ることができたのも貴重な経験です。第一線を走り続ける役者さんの、周囲を巻き込んで作品をつくりあげていくエネルギーにはすさまじいものを感じました。
演じるということに関して、私はスタートラインに立ったばかりですけれど、作品と役に愛情をもつこと、これだけは大切にしています。愛情がないと好奇心が湧かなくなって、役作りのためにいろいろなことを調べる手も止まってしまうし、届けるべきものが届かなくなってしまうので。
さまざまな役者の方と共演させていただいて思うのは、役者が役に込めるメッセージが強ければ強いほど、その作品が説得力のあるものに仕上がるということです。私も、役を通してメッセージをしっかり伝えなきゃと強く思います。そのためには世の中で起きていること何にでも興味をもって、学び続け、自分の奥行を広げていきたいです。

—これからめざす姿—

観てくださる方たちに必ず届くと信じて

昔から「童顔だね」と言われることが多いのですが、それと同じくらい、「年齢不詳だね」と言われることが増えてきました。顔の角度だったり、そのときの内面によって幼く見えたり年上に見えたりするのは、役の振り幅が広がるので、神様からのギフトというと恥ずかしいですけれど、いただきものだと感謝しています。声も、自分では頼りなく聞こえてずっとコンプレックスに感じていましたが、たとえば、JTのコマーシャルの「お姉ちゃん、待ってや」の声で私のことを覚えてくださったという方も多いので、役者としてはプラスに働いていますね。
そうした特性も活かしながら、舞台やドラマや映画だけじゃなく、もっといろいろな場所でお芝居ができるようになりたい。人間の複雑な心理に迫る役にも挑戦したいですし、大学時代はブロードウェイの作品もやらせていただいたので、ゆくゆくはブロードウェイの舞台に立ちたいという目標もあります。
作品のメッセージは、それを観てくださる方たちに必ず届く。そのことを信じて、表現の一つ一つを大切に、演じ続けていきます。

『街の上で』新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか
4月9日(金)より全国順次公開
配給:「街の上で」フィルムパートナーズ
配給協力:SPOTED PRODUCTIONS ©「街の上で」フィルムパートナーズ

プロフィール

PROFILE

古川琴音(ふるかわ ことね)

1996年神奈川県生まれ。立教大学現代心理学部映像身体学科 2019年卒。
2018年、沖縄市観光PR動画「チムドンドン コザ」でデビュー。主な出演作はドラマ「絶対零度~未然犯罪潜入捜査~」、「レンタルなんもしない人」、連続テレビ小説「エール」、「この恋あたためますか」、映画「春」、「チワワちゃん」、「十二人の死にたい子どもたち」、「泣く子はいねぇが」、舞台「世界は一人」など。最新出演映画「街の上で」が2021年春公開予定。

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