環境が激変するピンチを自分も会社も飛躍のチャンスに
アサヒ飲料株式会社 代表取締役社長 岸上 克彦さん
2018/09/04
立教卒業生のWork & Life
OVERVIEW
炭酸飲料の「三ツ矢サイダー」や「ウィルキンソン」、缶コーヒー「WONDA」、ブレンド茶の「アサヒ十六茶」、そして乳酸菌飲料「カルピス」——。老若男女におなじみの飲料ブランドを展開するアサヒ飲料で、岸上克彦さんは社長として采配を振る。
左:当時の就職活動は学生服を着用していた 右:アルバイトをかけ持ちして忙しい日々を送っていたが、友人と京都旅行に出掛けたりも
いまから46年前、岸上さんは、歴史あるチャペル、ツタの絡まる校舎、自由な校風といった、立教ならではの雰囲気に憧れを抱いて立教大学の門をくぐる。
入学後は「サッカー愛好会」に所属し、ボールを追った。
「新関東フットボールという同好会のリーグ戦に加入していて、他大チームとも対戦しました。私の時代は一部と二部ギリギリの実力で、入れ替え戦の常連。真剣に練習したし、一部に残留できたときに仲間と酌み交わしたビールは本当にうまかった(笑)」
3年次生のときにはキャプテンに。
「試合に出て勝ちたいという人もいれば、趣味として楽しめればいいという人もいる。そこは体育会サッカー部とは違うところです。さまざまな考えを持つメンバーをまとめながら、サークル全体のバランスを取っていかなければならない。たくさんの人と接して多様な意見に耳を傾けたことはとても良い勉強になったし、いま思えば、その後の人生にも役立つ経験になりました」
在籍した経済学部では、英語の専門書を教材とする原典講読の授業が強く印象に残っている。
「英語は得意じゃないので、辞書で分からない単語を一つ一つ調べながら、経済の文脈を理解していく。勉強しているという達成感がありました」
卒業後の進路の希望は食品会社。身近で慣れ親しんだブランドに携わる仕事に就きたいと考えた。岸上さんが就職活動に臨んだ時期は第一次オイルショックの影響で「就職氷河期」。苦戦を強いられたが、国民的な人気商品を手掛けるカルピス社への入社を決める。
入学後は「サッカー愛好会」に所属し、ボールを追った。
「新関東フットボールという同好会のリーグ戦に加入していて、他大チームとも対戦しました。私の時代は一部と二部ギリギリの実力で、入れ替え戦の常連。真剣に練習したし、一部に残留できたときに仲間と酌み交わしたビールは本当にうまかった(笑)」
3年次生のときにはキャプテンに。
「試合に出て勝ちたいという人もいれば、趣味として楽しめればいいという人もいる。そこは体育会サッカー部とは違うところです。さまざまな考えを持つメンバーをまとめながら、サークル全体のバランスを取っていかなければならない。たくさんの人と接して多様な意見に耳を傾けたことはとても良い勉強になったし、いま思えば、その後の人生にも役立つ経験になりました」
在籍した経済学部では、英語の専門書を教材とする原典講読の授業が強く印象に残っている。
「英語は得意じゃないので、辞書で分からない単語を一つ一つ調べながら、経済の文脈を理解していく。勉強しているという達成感がありました」
卒業後の進路の希望は食品会社。身近で慣れ親しんだブランドに携わる仕事に就きたいと考えた。岸上さんが就職活動に臨んだ時期は第一次オイルショックの影響で「就職氷河期」。苦戦を強いられたが、国民的な人気商品を手掛けるカルピス社への入社を決める。
会社の大きな変化 戸惑いから「気づき」へ
アサヒ飲料の商品の前で。100年ブランドの「三ツ矢サイダー」から、今年4月に登場した「ワンダ TEA COFFEE カフェラテ×焙じ茶」まで幅広い
営業セクションに配属され、自身曰く「モーレツ営業マン」としてバリバリ働いた。そして、38歳のとき大きな転機が訪れる。管理職としてマーケティング部門へ異動になったのだ。実はその前年、味の素がカルピス社へ出資し、経営陣が変わっていた。岸上さんをはじめ多くの社員が戸惑いを感じながら仕事に臨む中、ある商品が爆発的にヒットする。「カルピスウォーター」だ。岸上さんは初代ブランドマネージャーを任されたが、当初はここまでのヒット商品になるとは考えていなかったという。
「カルピス社に入社してカルピスをずっと売っていましたが、正直そこまで支持されるとは思っていませんでした。むしろ味の素から来た社員の方たちが『この商品はいける』と確信していた。営業現場で目先の数字ばかりに気を取られ、世の中の流れや消費者のニーズを大局的に見られなくなっていたのかもしれません。新しい『血』が入ったことで、改めてカルピスブランドの力に気づくことができた。これは大きな経験になりました」
カルピスはそもそも「家で飲むもの」だった。しかし、自動販売機やコンビニが広く普及し、缶コーヒーやペットボトルのお茶が続々と商品化され、いつでもどこでも飲めるように。その時代の風に乗り、「どこでも飲めるカルピス」としてカルピスウォーターは誕生した。ロングセラー商品として、いまも高い人気を誇っている。
岸上さんはその後もキャリアを重ね、マーケティング部門を統括する役員に。そんな中、またもや大きな変化の波が。2012年、味の素がカルピス社をアサヒグループホールディングスに売却。アサヒ飲料に統合されることになったのだ。「会社員人生で二度もこうした経験をするなんて、立教時代には想像もしませんでしたね」。岸上さんは笑い、そしてこう続けた。
「当然カルピスの社員たちは不安も動揺もあったと思います。でも、アサヒ飲料という大きなフィールドで、新しいことやこれまでできなかったことにチャレンジし、これまで以上に活躍の場が持てる可能性があるに違いない。それは、カルピス社と味の素の経験がある私だからこそ伝えられることでした」
「カルピス社に入社してカルピスをずっと売っていましたが、正直そこまで支持されるとは思っていませんでした。むしろ味の素から来た社員の方たちが『この商品はいける』と確信していた。営業現場で目先の数字ばかりに気を取られ、世の中の流れや消費者のニーズを大局的に見られなくなっていたのかもしれません。新しい『血』が入ったことで、改めてカルピスブランドの力に気づくことができた。これは大きな経験になりました」
カルピスはそもそも「家で飲むもの」だった。しかし、自動販売機やコンビニが広く普及し、缶コーヒーやペットボトルのお茶が続々と商品化され、いつでもどこでも飲めるように。その時代の風に乗り、「どこでも飲めるカルピス」としてカルピスウォーターは誕生した。ロングセラー商品として、いまも高い人気を誇っている。
岸上さんはその後もキャリアを重ね、マーケティング部門を統括する役員に。そんな中、またもや大きな変化の波が。2012年、味の素がカルピス社をアサヒグループホールディングスに売却。アサヒ飲料に統合されることになったのだ。「会社員人生で二度もこうした経験をするなんて、立教時代には想像もしませんでしたね」。岸上さんは笑い、そしてこう続けた。
「当然カルピスの社員たちは不安も動揺もあったと思います。でも、アサヒ飲料という大きなフィールドで、新しいことやこれまでできなかったことにチャレンジし、これまで以上に活躍の場が持てる可能性があるに違いない。それは、カルピス社と味の素の経験がある私だからこそ伝えられることでした」
学生も 「社会に参画している」という意識を
少しずつ時間をかけ、2017年、全部門、全事業が統合した。それに先駆ける2015年、岸上さんはアサヒ飲料の代表取締役社長に就任。買収された側の企業から経営トップが出る、というのは珍しい。「この会社の懐の深さですね。飲料ビジネス一筋に仕事をしてきたことが評価されたものと思っています」と分析し、こう続けた。
「違う歴史、文化を持った会社が、お互いを知り、リスペクトし合うことで新しいアサヒ飲料を作ろうという機運が高まった。結果として当社にとっては大きなプラスとなり、販売数量は増加を続けています。企業として成長していることを実感しています」
アサヒ飲料には、「三ツ矢サイダー」「ウィルキンソン」という、日本で生まれて100年を超える老舗ブランドがある。カルピスも2019年、誕生100年を迎える。「歴史あるブランドを日本だけでなく、グローバルに展開していきたい。さらに、他のブランドもそれに続くようなロングセラーブランドに育てて行く——。その思いを次の世代に受け継いでいけたら」。岸上さんはこれからを見据える。
まさに「次の世代」である立教の学生には、期待を込めてこう叱咤激励する。
「自分たちは社会の一員である。その自覚を持ってほしい」
学生はまだ社会に出ていない守られた存在であり、就職活動を経て卒業し、初めて社会人となる、という考え方に岸上さんは警鐘を鳴らす。
「学生は勉学に励んでさえいればいいと許されていた時代もあった。でも、現代の社会構造はそうではありません。例えばマーケティングにおいても、学生の購買行動はトレンドを予測する上で重要です。また、多くの学生がSNSを通じて世の中に情報を発信している。こういう状況にもかかわらず『学生だから社会とは関係ない』というのはおかしい」
入社1年どころか3カ月で退職してしまう新入社員がいる、そんな社会問題もある。
「自分は社会に参画している。その意識を強く持っていれば、社会に出てから持っている力をスムーズに発揮できる。そう期待しています」
「違う歴史、文化を持った会社が、お互いを知り、リスペクトし合うことで新しいアサヒ飲料を作ろうという機運が高まった。結果として当社にとっては大きなプラスとなり、販売数量は増加を続けています。企業として成長していることを実感しています」
アサヒ飲料には、「三ツ矢サイダー」「ウィルキンソン」という、日本で生まれて100年を超える老舗ブランドがある。カルピスも2019年、誕生100年を迎える。「歴史あるブランドを日本だけでなく、グローバルに展開していきたい。さらに、他のブランドもそれに続くようなロングセラーブランドに育てて行く——。その思いを次の世代に受け継いでいけたら」。岸上さんはこれからを見据える。
まさに「次の世代」である立教の学生には、期待を込めてこう叱咤激励する。
「自分たちは社会の一員である。その自覚を持ってほしい」
学生はまだ社会に出ていない守られた存在であり、就職活動を経て卒業し、初めて社会人となる、という考え方に岸上さんは警鐘を鳴らす。
「学生は勉学に励んでさえいればいいと許されていた時代もあった。でも、現代の社会構造はそうではありません。例えばマーケティングにおいても、学生の購買行動はトレンドを予測する上で重要です。また、多くの学生がSNSを通じて世の中に情報を発信している。こういう状況にもかかわらず『学生だから社会とは関係ない』というのはおかしい」
入社1年どころか3カ月で退職してしまう新入社員がいる、そんな社会問題もある。
「自分は社会に参画している。その意識を強く持っていれば、社会に出てから持っている力をスムーズに発揮できる。そう期待しています」
※本記事は 季刊「立教」245号(2018年7月発行)をもとに再構成したものです。 定期購読のお申し込みはこちら
※記事の内容は取材時点のものであり、最新の情報とは異なる場合があります。
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プロフィール
PROFILE
岸上 克彦 さん
1976年、立教大学経済学部経済学科卒業。
1976年、カルピス食品工業(現・カルピス)株式会社入社。2008年、常務執行役員。2014年、アサヒ飲料株式会社専務。2015年3月より、現職。カルピス株式会社代表取締役社長を兼務。